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演奏曲は本当に「自由」?保護期間と戦時加算の見分け方

「クラシックだから著作権は切れている」と思い込むと足をすくわれます。死後70年という基本ルール、2018年の期間延長、そして連合国の作家にだけ上乗せされる戦時加算。演奏する曲が本当に自由かどうかを、運営者が自分で見分けられるように順を追って整理します。

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この記事で整理すること

本文を読み進める前に、この記事の論点を俯瞰できるようにしています。

主題 演奏曲は本当に「自由」?保護期間と戦時加算の見分け方
1 保護期間の基本は「作曲者の死後70年」
2 2018年の延長と「復活しない」ルール
3 連合国の作家には「戦時加算」が上乗せされる
4 具体例:ヴォーン・ウィリアムズで確かめる(2026年6月時点)
5 戦時加算は「放棄」されている場合がある

保護期間の基本は「作曲者の死後70年」

音楽の著作権(作曲・作詞)は、原則として作曲者・作詞者が亡くなった年の翌年から数えて70年で消滅します。この期間を過ぎた曲はパブリックドメイン(公有)となり、演奏にあたって著作権の許諾や使用料は不要になります。注意したいのは、起点が「曲が作られた年」ではなく「作者が亡くなった年」である点です。古い時代の曲でも、作者が長命だったり改訂が新しかったりすると、思ったより最近まで権利が残っていることがあります。

  • 起点は作曲・作詞をした人の没年
  • 曲が書かれた年ではなく作者が亡くなった年で数える
  • 共作の場合は最後に亡くなった人を基準にする
  • 作者が長命だと現代まで権利が残ることがある

2018年の延長と「復活しない」ルール

日本の保護期間は長く「死後50年」でしたが、2018年12月30日の法改正(環太平洋パートナーシップ関連)で「死後70年」に延長されました。ここで運営者がつまずきやすい点が二つあります。一つは、20年延びたので「昔の感覚で50年経ったから自由」は通用しなくなったこと。もう一つは、改正の時点ですでに保護が切れていた作品は権利が復活しないことです。境目に近い没年の作家は、旧ルールで既に自由なのか、延長に間に合って70年保護なのかで扱いが分かれます。

  • 2018年12月30日から死後50年→70年に延長
  • 「50年経ったから自由」はもう通用しない
  • 改正時点で既に切れていた曲は復活せず自由のまま
  • 没年が境目に近い作家は特に慎重に確認する

連合国の作家には「戦時加算」が上乗せされる

ここが最も見落とされ、そしてアマチュア楽団で実際に効いてくる点です。戦時加算とは、第二次世界大戦中に日本が連合国の著作権を保護していなかったぶんを、戦後に上乗せして埋め合わせる特例です(サンフランシスコ平和条約に基づく)。対象は連合国民の著作物(アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリアなど)で、ドイツ・オーストリアの作家は連合国ではないため上乗せされません。つまり連合国の作家は「死後70年+約10.4年」まで保護が続きます。

  • 対象は連合国民(米・英・仏・加・豪など)の著作物
  • 上乗せはおおむね3,794日(約10.4年)
  • 日数は国ごとに違い、ブラジルは3,816日とやや長い
  • ドイツ・オーストリアの作家には戦時加算は乗らない

具体例:ヴォーン・ウィリアムズで確かめる(2026年6月時点)

英国の作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1958年没)の戦前の作品を例にとります。死後70年だけで数えれば2028年末に保護が切れるはずです。ところが英国は連合国にあたるため、戦時加算(約3,794日=約10.4年)が上乗せされ、2039年ごろまで保護されると判断される可能性があります。つまり2026年現在、まだ自由には使えません。死後70年だけを見て「もう切れている」と判断すると、連合国の作家では10年近くずれることがあります。なお戦時加算は戦争期間中に著作権が存在していた作品が対象のため、戦後に書かれた作品では及ばない場合もあり、最終判断は作品ごとに確認するのが安全です。

  • 本来:1958年+70年=2028年末で満了のはず
  • 戦時加算(+約3,794日)で2039年ごろまで保護される可能性
  • =2026年6月現在、まだパブリックドメインではない
  • 戦後に書かれた作品は加算が及ばない場合がある

戦時加算は「放棄」されている場合がある

近年は、JASRACの働きかけによって、一部の国の著作権管理団体が戦時加算の権利を放棄する動きが進んでいます。たとえばブラジルの管理団体(ABRAMUS)などは、2022年までに戦時加算を放棄しています。放棄された国の作品では、実務上は戦時加算が上乗せされないと考えられます。たとえばブラジルの作曲家ヴィラ=ロボス(1959年没)は、額面どおりなら死後70年(2029年末)+3,816日でさらに約10年延びる計算ですが、放棄の扱いによっては死後70年(2029年末)で判断される可能性もあります。戦時加算は「対象国かどうか」だけでなく、「日数」と「放棄されていないか」まで合わせて確認しないと判断を誤ります。

  • 一部の国は管理団体が戦時加算を放棄(ブラジルABRAMUS等、2022年まで)
  • 放棄された国の作品は実務上は加算されない可能性
  • ヴィラ=ロボス:額面は2029年末+3,816日、放棄なら2029年末で判断の可能性
  • 『対象国か』『日数』『放棄の有無』の3点を合わせて確認する

実際の見分け方の手順

プログラムが固まったら、曲ごとに次の順で確認すると判断を誤りにくくなります。作曲者(編曲があれば編曲者も)の没年を調べ、その翌年から70年を数えます。作者が連合国の国民なら、さらに約10.4年(戦時加算)を、日数差と放棄の有無に注意しながら上乗せします。その期限が過ぎていれば原則自由、過ぎていなければ権利が残っています。原曲が自由でも、使う版や編曲には別の権利が生じることがあるため、版は別に確認します。

  • 作曲者・編曲者の没年を調べる
  • 没年の翌年から70年を数える
  • 連合国の作家なら戦時加算を上乗せ(日数と放棄を確認)
  • 期限を過ぎていれば原則自由、過ぎていなければ権利が残る
  • 編曲・校訂版は原曲と別に権利を確認する

「自由」でも手続きが要る場合がある

原曲がパブリックドメインでも、安心しきれないケースがあります。実際に使う楽譜の版(エディション)や編曲に新しい権利が付いていれば、その版を演奏・複製するには許諾が必要になることがあります。逆に、原曲に権利が残っていればJASRACなどへの手続きが必要です。手続きの要否や使用料の詳細は、当サイトの楽譜準備のガイドもあわせてご確認ください。

  • 「クラシック=すべて無料」は誤解。没年と国籍、そして版で変わる
  • 戦時加算は連合国の作家にのみ、独墺などには乗らない
  • 編曲・校訂版・歌詞は原曲と別に権利を判断する
  • 迷う曲は出版社やJASRACの管理状況を曲単位で確認する